百融、AI社員に成果報酬 コールセンター処理数が急増
香港上場の中国AI企業・百融智能は、AIエージェントに成果報酬でコンタクトセンター業務を任せる方式で上半期のAICC事業を前年比52%増に伸ばした。ある物流顧客では1日の処理件数が1000件未満から1万5000件超に急増している。

大規模言語モデルの性能が上がり続ける中、企業の購買判断を左右する問いが一つに集約されつつある――企業は結局、何に対価を払うのか。香港上場の中国AI企業・百融智能(バイロン・インテリジェンス)が公表した2026年上半期決算は、その具体的な答えを示している。モデルの性能そのものではなく、測定でき、請求できる成果に対して支払う。全社売上は規制強化の影響で減少したが、AICC(AIコンタクトセンター)事業は前年比52%増と伸び、金融以外の新分野の売上は同195%増となった。
この変化を象徴するのが二つの現場だ。ある物流顧客では、AIエージェントが1日に処理する電話件数が、導入当初の1000件未満から8月末には1万5000件超まで増えた。大手証券会社では、導入されたエージェントの「席数」が年初の約30席から約210席に拡大した。百融はこうした、問い合わせ・苦情対応・営業といった実務を担うエージェントを「シリコン社員」と呼び、ライセンスや席数ではなく成果に応じて課金する。企業向けエージェントの商用化を財務データで裏付けた、数少ない実例といえる。
決算に現れた二つの相反する曲線
2026年上半期、百融の売上高は9億1400万元で前年比43%減。売上総利益率は73%から53%へ低下し、前年同期の2億100万元の黒字から3億2200万元の赤字に転落した。決算資料によれば、原因は2025年10月に施行されたインターネット融資仲介に関する規制と、2026年上半期に相次いで導入された関連規則にある。これにより複数の金融機関が一部商品の取り扱いを停止し、百融の中核事業であるAI与信判断とクレジット向けマーケティングを直撃した。AI与信判断事業の売上は3億7200万元(前年比26%減)、その他事業は3億7700万元(同62%減)だった。
一方でAICC事業は正反対の曲線を描いた。売上は1億6600万元で前年比52%増、全社売上に占める比率は約6.8%から約18.1%へ上昇した。同時に百融は、全体の売上が縮小する中でも研究開発費を31%増の3億9400万元(売上比43%)に引き上げた。6月末時点の従業員1477人のうち901人、実に61%が研究開発職だ。百融の創業者兼CEOである張韶峰氏は決算説明会で、この事業構造の転換を「戦略的アップグレード」と位置づけた。
定型スクリプトから、本当に用件を解決する対話へ
従来型のコンタクトセンター向けボットは、主に発信型の定型業務――リマインドや画一的なマーケティングキャンペーン――を担ってきた。これに対し複雑な着信対応はまったく別物だ。顧客は自由な言葉で問い合わせてくる。トーンも状況も事前には想定できない。エージェントはそれを理解し、複数ターンの対話を成立させたうえで、ナレッジベースや社内システムを参照して初めて用件を完結できる。張氏によれば、従来型ボットはこうした複雑なケースの70~80%を有人対応に転送してしまう。新世代AICCが埋めようとしているのは、まさにこの差だ。
百融の技術戦略は、サードパーティーのモデルの上にアプリケーション層を築くのではなく、自社で専門特化した基盤モデルを訓練することにある。音声マルチモーダルモデルのBR-Voice、能動対話モデルのBR-LLM-Proactive、文書理解モデルのBR-Vision-Docを保有し、パラメータ規模はあえて0.4B~30Bに抑え、精度・安定性・レイテンシ・推論コストのバランスを規模より優先する。張氏は、OpenAIやAnthropicなど外部の基盤モデルの上にサービスを構築するSierraやDecagonといった欧米のAICC企業との違いを明確にする。百融は事前学習、事後学習、推論最適化までを自社で握ることで、本番環境で問題が起きた際にアプリケーション層とモデル層のどちらに原因があるかを素早く切り分け、次の学習サイクルに直結できるという。多言語対話音声理解を競うINTERSPEECH 2026 MLC-SLM Challengeでは94.84%の精度を達成し、世界3位、中国産業界では1位を主張する。現場への実装を担うのは「FDE(フォワード・デプロイド・エンジニア)」と呼ばれるチームで、顧客の既存業務フローを洗い出し、エージェントが動かすワークフローへ再構成する。
サブスクではなく、成果への課金
百融のRaaS(Results as a Service)モデルは、案件に応じて、有人対応への転送なしに解決した通話やチケットの件数、実際に稼働させたエージェントの規模、あるいは創出した事業規模に応じた分配のいずれかで課金する。物流案件について経営陣は決算説明会で、解決件数あたりのコストがすでに従来の有人コールセンターより50%以上低いと明かした。これはソフトウェアライセンス、SaaSのサブスクリプション、トークン課金とは根本的に異なる。ソフトウェアを納品した後の運用リスクは通常顧客側が負うが、成果課金では技術ベンダーが顧客の業務プロセスに直接組み込まれ、モデルの性能・安定性・コストがベンダー自身の問題にもなる。
この戦略は突然出てきたものではない。2025年12月18日、親会社の百融雲創はすでに企業向けAIエージェント戦略と、「結果雲(Results Cloud)」と呼ぶプラットフォームを正式発表していた。掲げるコンセプトは「シリコン・カーボン共治」――標準化され、プロセス化され、計算負荷の高い業務はAI(シリコン)が担い、人間(カーボン)は戦略・創造性・人間関係に集中するというものだ。プラットフォームは、独自インフラとモデルの層、企業向けエージェントOSの層、既製エージェントを揃えたストアの層という3層構造で、四つの主力エージェントとともに発表された。営業・カスタマーサービスを担うエージェントはチームの年間離職率を70%超から0%に下げ、成約率を217%押し上げたとされる。採用エージェントは採用サイクルを28日から2日に短縮。海外展開向け専門サービスエージェントは対応期間を90日から14日に圧縮。ナレッジ生成エージェントは詳細レポートの納品を20日から4日に短縮したという。
企業向けAIの次の段階は、より上手に話すことではなく、より多くをこなすことだ。機能を届けることではなく、結果を届けることだ。
金融から物流、航空、証券へと広がる複製
金融分野で7~8年かけて磨き上げてきた百融のAICC能力は、いま物流、航空、証券、銀行、通信、保険といったサービス集約型の業界へと複製されつつある。これらの業界に共通するのは、継続的かつ膨大な顧客接点があり、業界の集中度も高いという点だ。大口顧客一社で実証済みの導入事例を作れば、まず社内の他部門へ、次に同業他社へと展開しやすい。7月時点で、証券業界では13の機関が百融と契約済みか契約交渉中だった。ただし経営陣は、業界横断的な展開で最も時間を要するのは大企業の調達検証サイクルとシステム統合の部分だと認めており、セキュリティ・コンプライアンス・サービス範囲が確認されて初めて処理量が段階的に解放されるという。
労働力不足が慢性化する日本企業がAIエージェントのベンダーを評価する際、この事例が示す実務上の教訓は明確だ。購買基準は機能一覧から、有人転送なしの解決率、対応1件あたりのコスト、規模展開できるという実証済みの根拠といった、検証可能な成果指標へと移りつつある。カスタマーサービス、採用、法務・経理などすでに標準化が進んだ業務に従事する人にとって、この中国の事例は早期警戒シグナルでもある。同じ技術が一つの業界から別の業界へと複製されていくとき、真っ先に自動化されるのはこうした業務だからだ。人事部門には、企業向けAIエージェントが実際に本番稼働する日を待つのではなく、判断力や人間関係を要する業務へ人員を再配置する計画を今のうちから立てておく必要がある。
出典
- 企业级Agent落地样板间!百融硅基员工批量上岗,按结果领工资量子位 (QbitAI) · 2026年9月1日
- 用AI“交付结果”—百融云创发布RaaS战略及“结果云”平台新京报 (The Beijing News) · 2025年12月18日



